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3月 春を迎える前に、心地よい氷の音楽

「この冬は本当に辛かったね」…大勢の口からついつい出てきてしまう言葉。雪のない闇だけ雨だけは相当堪えたようだ。森や動物も冬のタイミングに苦 労していたんじゃないかと思う。そんなところへ2月になって勢いよく冬の醍醐味が訪れてくれた。いやあ、これで春を迎える勢いも一気に晴れ晴れとしてきている気がする。

 

雪や氷に感謝してなんだかお祝いしたくなってしまい、ついつい遠出しちゃいましたとも。ノルウェーの小さな町まで行って、氷の音楽を楽しんでみたりとかね。

山の頂で、氷と雪だけできた小さな野外ステージと、かまくら作りの小さなコンサート部屋。満月の夜に月明かりと、それを浴びてほんのり光る雪に包まれた場所。そんなところで地元の人たちが集まって一緒に氷の楽器が奏でる音楽を聴くのだ。夜遅いけれど子供たちもいて、犬は犬でくしゃみをしながらしっぽをブンブン振って楽しんでいる。暖冬で雪も氷もない日々が改めて教えてくれた雪や氷の明るさや暖かさ、心をほっとさせるなにか。小さな頃から氷に親しんでいるノルウェー人の氷の音楽は、寝る前に親が読み聞かせてくれるようなワクワクと心地よさを持っていてくれるようで。雪なんて人生で一度も見たことがなかったブラジル人たちの氷の楽器には、氷を叩くたびに響く驚きに満ちた音がサンバのリズムを新鮮なものにしてくれていた。周囲といえ ば、もっこもこの防寒で、激しく踊っていても「おしくらまんじゅう」っぽくもぞもぞ動いているようにしか見えないし。もこもこサンバも楽しいものだ。思わず知らない人でも目が合えばにっこり笑ったり話を始めたり…

 

冬らしいところで、冬の醍醐味を心から楽しむって本当にいい。不思議なくらいに冬に対するズルズルした気持ちがすっきりなくなって、青空を見るたびに「もう春の匂いが鼻をくすぐってくれてる気がする」なんて思ってしまう今日この頃。来年もノルウェーに行くな、きっと。


http://www.icefestival.no/(英語、ノルウェー語のみ)

朝の風景。夜のうちに木々に氷がついて白い世界が一面に広がる。雪の積もった木々もいいけれど、氷の膜をまとった枝々がくっきりの樹氷もおすすめ。

音楽だけでなく、山と雪と小さな丸太小屋の並ぶ風景は、小さな頃読んでもらっていた絵本を思い出させてくれた。

音楽家というのは、移動の際に楽器を運ぶのが大変だと聞くけれど、氷の楽器はこうして自然に帰します。サンバの宴のあと。

森下圭子さん

Keiko Morishita-Hiltunenさん

 

ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。

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