11月 美味しい空気で夢か現(うつつ)か
またまた一年で一番きつい時期がやってきた。太陽が縁遠くなる11月。とはいえ寒くても暗くても、朝も7時を過ぎると街が動きだす。朝市のテントの 中で出勤前のコーヒーを飲んでいる人がいれば、そのそばを犬の散歩で通り過ぎていく人もいる。建築現場は朝7時から作業開始だ。ひっそりとした暗闇の中で迎える朝に、人の気配と、そしてあちこちからぽっと灯される明かりが増えていくと、ほっとする。そんな景色に足を止め、ふっと息をすうと、体に入っていく空気がとてもおいしく感じられる。
空気がおいしい。フィンランドでは空気を「おいしい」などと味覚で表現しないのだそうだ。新鮮とか、キリリという表現くらい。 でも空気って、やっぱり味わっちゃうんだよなあ。いよいよ雪が積もって、森で茸やらベリーに明け暮れることもなくなると、ますます空気の味見に意識が集中してしまう。
森の中であくびをしていると、「空気がおいしすぎて空気を吸い過ぎてんじゃないか」と指摘されたりする。冬になるとやたら眠いのは、冬の澄んだ空気を必要以上に吸ってるのだろうか。とにかく眠い。そしてそんなぼんやり頭でトラムに乗っていたときのこと。窓越しに信号を待つ犬が二本足で立ち、飼い主の足に頭を沈めているのが見えた。それは恥ずかしがり屋さんの子供が、もじもじと親の背後に回ってみたり、親の体にまとわりついて顔をうずめている姿にとてもよく似ていた。前足ののばしかた、体のまとわりつかせ方、まるでヒトの子のような犬。妙に板についたその姿を見ていたら、犬が二足歩行で暮らす夢の中の世界に迷い込んでいるのか、いま目の前にある光景は現実なんだっけか…夢か現かの狭間で気持ちが行ったりきたりしていた。
暗闇がちの毎日は決してハツラツとはしていない。でもぼんやりした頭で、それなりにぽっと暖かい時間が、だるいけれど夢か現かといったゆるい時間が生まれている。朝の市場でクランベリーを買っておこう。朝のまどろんだ時間をパンチの効いた酸味でしゃきんとさせ、一日の仕事を始めなくては。北国に酸っぱいベリーが育ってくれるのは、自然の知恵なのかもしれない。
首都というのに緑にも水にも恵まれてるんだな、と改めて気づく。街なかに住んでいても豊かな自然の中で散歩を楽しめる。海が凍れば海の上まで歩けるしね。
フィンランドの日常にすっかり定着しているノルディックウォーキング。先生つきのサークルも。老若男女が集い楽しそう。体だけでなく心にもよさそうだ。
そろそろサンタさんに手紙を書いたりする季節。ちょっと早いけれど、クリスマスの雰囲気を。