7月 蚊をとるか、ベリーをとるか
今年は全国的に蚊の当たり年らしい。もともとフィンランドは蚊の多い印象がある。なかでも夏のラップランド。ラップランドと聞いて即、「蚊」を連想する人は多い。そんなところにいま、私はいる。うかつだった。都市というのは蚊すら寄りつかないのか、首都の中心部で蚊をみることはない。ヘルシンキの街なかにいたときは、蚊の存在なんてすっぽり頭から抜けてしまっていたのだ。
夏休みを陽のまったく沈まないところで過ごせるなんて何て贅沢なんだろう……なんてウキウキしながらラップランドにやってきた。そして、すぐさま大量の蚊に囲まれた。かゆいだけじゃなくって、歩いても走ってもずっとつきまとわれる時の、あの耳障りな音が本当に辛い。身の危険を感じるほどだ。心身ともにぐったりさせられるといおうか。まず帽子を買った。顔や頭を覆えるネットがついた帽子だ。さらに虫除け対策グッズを探してまわった。今年はいつも以上に蚊が多いということは、地元の人たちもウンザリしているようで、大型スーパーでは蚊取り線香が品切れだった。
こんな状況で予想よりも早くにブルーベリーが熟しはじめてしまった。すでに道端の鳥フンはブルーベリーの鮮やかな青紫になっている。気持ちは焦るのだけれど、なんとも森に行く勇気がでない。どうしても森の中で待ち受けるすさまじい数と大きさの蚊に気持ちが萎えてしまう。なんとももどかしい毎日だ。
せめてそこいら辺で手に入るものを、と思って雑草のように生えているルバーブのジュースやジャムを作ってみたりしている。さらに今年のベリー・きのこシーズン早くも到来!ということで、冷凍庫で大切に保存されていた去年のベリーや茸をふんだんに使った料理なんかも楽しんでいる。8月になれば蚊はいなくなる よ、と言う人がいたけれど、本当に何とかなるのだろうか。「鳥たちよ、お願いだからブルーベリーをちょっとは残しといておくれ」、という気分だ。
陽が沈まないラップランドの真夜中の風景。
大人ほど蚊を気にしていないように見える子供たちは、蚊の季節でも楽しそうに釣りをしている。
ベリー同様、森ではすでに一部の茸が摘み頃に。例年よりずっと早い。蚊さえいなければ……。市場の杏茸で作ったキッシュと庭先のルバーブを使ったジュース。
森下圭子さん
Keiko Morishita-Hiltunenさん
ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。