4月 北のヴィエラのおそい春
カラヨキという町にいる。外国で出版される観光ガイドには紹介されていないかと思うけれど、フィンランドの人たちの間では人気のバカンスの地だ。夏になると全国からやってくる。隣町で雨が降っていてもここだけは青空というくらいに雨が少ないことから、「北のリヴィエラ」などと呼ばれるほど。長い長い砂浜が特徴で、岩がちなフィンランドにあってどこまでも続く砂浜というのもまた異国情緒があっていいみたい。
ところが夏以外は本当に人が少ない。1週間滞在しているこのホテルにも、ほとんど人がいないらしく、朝食はいつも私だけがレストランでぽつんと座っているばかりだ。夏は砂浜のキャンプ場も海辺の夏小屋もどこのホテルも人でいっぱいで、森の中の散歩道も犬を連れている人、ベビーカーを押している人と賑やか。実はこの北のリヴィエラ、春がやってくるのがどこよりも遅いのだそうだ。
フィンランドは今、どこもかしこも春。木々に大地に空に、春がそこここに春のぬくもりを勢いよく吹きつけていく。カラヨキの少し先では川の氷が割れ、ごろごろと川の流れにのって氷の塊が転がっていく。ところがカラヨキはまだ冬がふんばっている。海はまだまだ凍てついていて、雪原のように微動だにせず広がっている。川の流れに乗ってやってきた氷の塊は、海の手前でどんどんど溜まっている。
この町ではイースターのときにかがり火をたくのだそうだ。フィンランドでは全国的に夏至祭の風物詩になっているものだ。岸に流れついたものや、解体した建材や薪割りででた使わない枝葉などをまとめて、かがり火で燃やしてしまう。イースターといえば魔女に変装した子供たちが近所の家を歩きまわってお菓子を貰うという風習のあるフィンランド。イースターでかがり火を焚くのは魔女つながりでというのがカラヨキでの一般的な説明らしい。春がなかなかこない町でのこの時期のかがり火は、太陽を模して春を呼んでいるようにも見えるのだった。
夜9時ごろの日の入り。日照時間はぐんぐん長くなり、太陽は着々と白夜に向かって時を刻んでいく。
雪の下でひと冬越したリンゴンベリー。リンゴンベリーとクランベリーは雪の下で冬が越せる。
近くの町では空の青さもぐんと濃くなり春が一段と深まっている。