6月 世界大会から食糧まで、白樺の使い方
夏至祭に欠かせないもの。コッコと呼ばれるかがり火、いちご、新じゃが、にしん、水辺のサウナ……。首都ヘルシンキは一年で一番人がいないといわれるほど、人々はこぞって田舎に移動し、いつまでも暮れない夏の夜を楽しむのだ。
夏至といって私がまっ先に思い出すのが「サウナ用の白樺の束」だ。サウナの中でこれで体をパシパシはたくと、血行がよくなるという。このサウナ用白樺の束は、夏至までにつくるべきと教わった。夏至を過ぎると白樺の葉が、体をはたくたびに落ちやすくなるのだそうだ。
白樺の束といえば、これまではサウナで体をパシパシしか知らなかったのだけれど、今年は夏至祭のときに白樺の束にまつわる新しいことをいくつか体験させてもらった。
まずは白樺の束を投げてその距離を競う「白樺の束投げ世界大会」だ。小さな町で、大会審判も進行も司会も、解説や実況まで全部一人のおじさんがテキトーにやっている。その場で誰でも参加できて、日本のお祭りの金魚すくいくらいに気軽だ。本気で練習してきた風の人もいるし、思いつき参加者もいる。
夏至祭の前日、小さな町の朝市は人でごった返す。白樺の束もたくさん売っていたけれど、でも夏至に入る水辺のサウナ小屋では、自分で作った束を用意したい。サウナで一緒だった友人が、おもむろに束で私の足をはたき始め、「この足は大丈夫!こんどの冬は寒さ知らず!」と唱えだした。おばあちゃんに教わったおまじないだそうだ。こうすると足が冷えず冬を越せるという。
そしてもうひとつ、ケルップと呼ばれる白樺の束を作った。これから乾燥させて、冬に羊たちに食べさせるための白樺の束だ。飼い主に見捨てられた羊たちを保護している獣医さんのお手伝いだったのだけれど、束の数がなかなか追いつかない。ベリーの季節まではもう少しあるし、白樺の束作りに集中しよう。
白樺の束をこうやって乾燥させ、羊たちの冬の食糧にする。
白樺の束投げまで世界大会に。
夏至祭に欠かせないのが水辺のサウナ。湖で泳いだり、桟橋のベンチに腰かけてサウナで火照った体を冷ましたり。
森下圭子さん
Keiko Morishita-Hiltunenさん
ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。