2月 おじいさんたちの楽しみ
皆が戸惑う今年の2月。冬らしくないのだ。雪の代わりに雨が続き、空を灰色の雲が覆う。会話していても、つい「11月に戻ってしまったみたい」と力なく笑ってはため息をつくような毎日だ。
机に向かっていても眠くなるばかり。なんとかしなくちゃと気分転換に散歩するようになり、そして気づいたことがある。
昼過ぎに散歩していると、おじいさんたちに遭遇する機会がぐっと増えるのだ。そういえば、視察や取材であちこちを回っていると、対応してくださる方が女性のことが多くて、「男の人たちはどこ?」と質問されることがある。もちろんランチやコーヒーで仕事勤めの男の人たちを見かけはする。でも、そんなことを考えていると、おばあさんたちは美術館や劇場など、趣味の場で賑やかにやっている一方で、おじいさんたちをあまり見かけないのだ。
昼過ぎに海辺や森を散歩していると、おじいさんたちが一人で気ままに散歩している。そしてけっこうな確率で手に袋をもっている。おじいさんたちには決まった場所があって、そこで鳥たちに餌をやるのだ。木に葉が生い茂る夏には気づかないけれど、ヘルシンキの森や公園のあちこちの木々にはお手製の餌台がしつらえてある。特に多くの人が餌を置くようなところには、「ここは水だけ」「ここは〇〇用」などと、注意書きまである。
決まった時間に散歩するのか、通りがかりのおじいさんたちは、お互いが顔見知りという感じで、軽く挨拶をしたり立ち止まって言葉を交わしたりしている。
そこにはどんな鳥がいるのか、ほかにどんな生き物がやってくるのか、おじいさんたちは詳しい。
熊のようにずんぐりと大きな犬を連れて海辺をゆっくり散歩するおじいさんがいる。そして公園でひと休みするのが日課だ。犬はベンチの上にお座りし、おじいさんに寄り添う。おじいさんがじっと前を見つめるように、犬もまた前を見つめている。
わさわさと忙しくしているときには目に入ってこない風景の中に、静かに日々を楽しむ人たちの姿を見つけた嬉しさ。そうだ、これは11月じゃない。春はもうそこまでやってきているのだ。
凍った海を歩けたころ
町のあちこちに、お手製の餌台が
凍った海はどんどん解けていき
森下圭子さん
Keiko Morishita-Hiltunenさん
ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。