7月 夏の贅沢
例年より早くブルーベリーが熟し始め、今年は摘み頃期間も長くなるだろうと予想がでた。昨日もヘルシンキの町なかでバケツいっぱいのブルーベリーを嬉しそうに運んでいるおじいさんを見かけた。長靴を履いていたので、一日じゅうブルーベリーを摘んで家路につくところなのだろう。
「調理する直前に掘ると格別なんだから」と、新じゃがの掘り時にこだわるお母さん、すでに赤く甘くなっているけど、「でもね、あと1週間待てばもっともっと甘くなる」と野いちご摘みをぐっと我慢する高校生、網にかかった魚を今日明日とどんな料理にしようか「やっぱり燻製がいい!」などと話し合う家族。夏はそこここで新鮮な食材が手に入る。すでにきのこの収穫がある人もいるほどだ。
森と湖が豊富なフィンランドは、自然享受権の恩恵もあり、誰にとっても自然の恵みが手に入りやすい。秋はきのこ、晩秋からは狩猟もあるし、冬は凍った湖や海で魚釣りもできるけれど、それでも誰もが手に入れやすく、食卓のほぼすべてを身近な食材でまかなえるのは、夏のほんのわずかな時間だけだ。
フィンランドの料理は、食材の味を楽しむものが多い。調味料もソースもシンプルなものが多い。美しい自然のなかで育まれた食材を、その食材の味をあますことなく楽しみたい。そういう気持ちが表れているのではとも思う。
新鮮なカリフラワーは生で、にんじんは丸かじり、魚はバターでソテーしたり燻製に、野いちごはそのまま、ブルーベリーなら牛乳をかけて。シンプルに採れたての食材の味を楽しむ。一年のうちのほんの短い間のフィンランドの贅沢だ。そして白夜のフィンランド、野菜もまた、ほぼ終日で陽を浴びているせいか甘味が増し、味は一層深くなっている気がするのだ。
市場には国産の新鮮な野菜が並ぶ。夏ならでは。
首都ヘルシンキの23時。日が沈んでいくのを眺める人たち、日没後の静けさに佇む鳥たちをぽつりぽつり海辺でみかける。
夕焼けの綺麗な日は、その様子を眺めようと自転車や散歩で行き来する人たちに次々と遭遇する。23時のヘルシンキ。
森下圭子さん
Keiko Morishita-Hiltunenさん
ムーミンが大好きで、ムーミンとその作家トーベ・ヤンソン研究のためにフィンランドへ渡り、そのまま住み続けている森下さん。今はムーミン研究家として、またフィンランドの芸術活動や、日本へフィンランドを伝える窓口として、幅広く活躍中。